CHECKER3という謎解きマシーン

机のまわりを整理しようと開ける引き出しの中、そこには白と黒のケーブルたちが、まるで主張するかのように絡まり合っている。

気がつけば、どこからやってきたのかもわからないUSBケーブルが50本以上。スマートフォン、コンピュタ、電気カミソリ……最近の家電製品というのは、必ずといっていいほどUSBケーブルが同梱されてくる。しかも「何のためのケーブルか」など考える間もなく箱から取り出して使い始めるから、どれが何だかまったくわからなくなる。

捨てようと思う。思うのだが、捨てられない。

「もしかして充電専用で、データは転送できないやつじゃないか」「いや、これは高速充電に対応しているやつかもしれない」——そんな不安が頭をよぎるたびに、ケーブルは引き出しの中へと舞い戻っていく。こうして我が家のケーブルの山は、春になっても、夏になっても、着実に育ち続けるのだ。

そんな悩みを抱えたまま、ある日ふらりと立ち寄ったネットショッピングのページで目に入ったのが、「USB CABLE CHECKER3」という小さな機械だった。

値段は1万円弱。手のひらに乗るほどのコンパクトなサイズで、USBケーブルを両端に差し込むと、そのケーブルの「正体」を教えてくれるというシロモノだ。

「これだ」と思った。迷わずポチった。

届いた箱を開けると、思っていたよりさらに小さい。「本当にこれで大丈夫か?」と少し不安になりながら、引き出しの中から適当なケーブルを一本取り出して差し込んでみた。

すると画面に、こんな表示が現れた。

……なんだこれは。

「VBUS」「D+」「CC1」「SBU」「TX/RX」——まるで宇宙人からの暗号文のような文字列が並んでいる。チェックマークと×マークが混在していて、何がよくて何がダメなのか、正直まったくわからない。暗号だ!

Geminiくんに聞いてみたらこんな回答が返ってきてくれた。

このケーブルは、お持ちの中で「最も貴重で高性能なデータ・映像用ケーブル」です。

  • 得意なこと:
    • モニター接続: PCからモニターへの映像出力。
    • 超高速転送: 外付けSSDなどのデータ移動(1枚目よりさらに速い可能性があります)。
    • オーディオインターフェース: 抵抗値が極めて低いので、ノイズを嫌うオーディオ機器(DAW環境など)にも最適です。
  • 苦手なこと:
    • 特にありませんが、100W必要な大型ノートPCのフルスピード充電だけは、2枚目のケーブルに譲ります。

「ここぞという時のメイン機用(PCとドックやモニター、オーディオ機器の接続)」には、迷わずこのケーブルを選んでください!素晴らしい品質のものです。

と、まあこんな感じで解説してくれる。

別のケーブルを差し込むと「Charge Only」と表示された。充電専用、データ転送には使えないやつだ。これは捨てていい。

また別の一本は「USB3.2 Gen2 Full」と出た。なんと高速データ転送に対応した、なかなか上等なケーブルだったのだ。これはちゃんと保管しておこう。

こうして引き出しの中のケーブルを片っ端から差し込んでいくと、10本あったケーブルが、「使えるもの」「充電専用」「謎のもの」に仕分けされていった。謎の暗号だらけの画面は、実は非常に正確に、そのケーブルの実力を伝えてくれていたのだ。

1万円足らずの機械が、何年もかけて積もり積もったケーブルの悩みを、30分で解決してしまった。これは確かに「得した」と思った。この春一番の買い物である。

さて、仕分けが終わった。「充電専用」と判定されたケーブルは、潔く処分することにした。

引き出しはすっきりした。SSDへのデータ転送スピードもなんとなく速くなったような感じで、気分も晴れやかだ。

短気は損気

「ちょっと、なんでこんなに時間かかってんの」

昨晩、Macのソフトウエアのアップデートが終わらなくて、思わずひとりごちてしまった。相手は機械である。怒っても意味がない。それはわかっている。でも、口をついて出てしまう。

歳をとると、丸くなると聞いていた。人生経験を積んで、多少のことには動じなくなる——そんなイメージを勝手に抱いていた。ところが現実はどうも逆らしい。電車が遅れる。レジの列が動かない。メールの返信がこない。若いころは気にも留めなかったことが、いちいち引っかかる。こんなことで夫婦間でお互いがキレ合っている(こともある)。

どうやらこれ、医学的にも説明がつくらしい。加齢とともに脳の前頭葉——感情にブレーキをかける部位——の働きが少しずつ衰えていく。つまり短気は「性格の問題」ではなく、「脳の問題」でもあるというわけだ。なんだ、私のせいじゃないじゃないか。……と、責任転嫁したくなるのも、また前頭葉の仕業かもしれないが。

ただ、気づいたことがある。短気を起こしたとき、たいてい自分が疲れているか、余裕をなくしているかのどちらかだ。イライラは、自分の内側からのサインなのかもしれない。

「短気は損気」とはよくいったもので、怒って得したためしがない。でも、ゼロにしようと躍起になるより、「ああ、今日も少し余裕がなかったな」と気づけるようになれれば、それで十分じゃないかと思うようになった。(というか気持ちを落ち着かせる努力をするようになった)

丸くなるのは、もう少し先の話にしておこう。

この季節になると必ずみなさんに見てもらうビデオ。

自宅から見た桜を題材に作った自作ビデオ。BGMもスタジオに篭って一晩で作った。この頃が一番アバンギャルドだった(笑)

「沼」

人間には、定期的に「沼」にハマってしまうサイクルがあるのだろうか。

気づけばそこにいる。気づけばお金が消えている。気づけば夜中の2時に画面を見つめている。そして翌朝、後悔するどころか「今日も続きをやろう」と思っている。これが沼だ。恐ろしい場所である。そして、これほど豊かな場所もない。

数年前、わたしはアナログモジュラーシンセという沼に落ちた。

モジュラーシンセとは、音の部品——発振器、フィルター、エンベロープ——をケーブルで物理的につなぎ、音を「設計」する楽器である。楽譜も、コードも、関係ない。そこにあるのは電気信号と、自分の耳と、底なしの好奇心だけだ。

「誰も聴いたことのない音を出したい」。その一心で、モジュールを一個、また一枚と買い足した。机の上のラックはどんどん重くなり、財布はどんどん軽くなった。総額を計算したことは、今もない。計算してはいけない類の数字というものが、人生にはある。

それでも後悔はしていない。あの頃の奮闘が、「音とは何か」を体で覚えさせてくれた。沼とは、授業料の高い学校なのだ。

そして今、新しい沼にいる。AIである。

最初はおそるおそるだった。「ChatGPTというものが流行っているらしい」程度の入り口だった。ところが触り始めると、止まらない。音楽生成、画像・動画生成、データベース構築、文章の壁打ち相手、挙げ句の果て人生初めてのコード学習である——AIにできることの幅が、日に日に広がっていく。まるで、ケーブルをつなぐたびに新しい音が生まれたあの頃と、どこか似ている。

ただ、前回と決定的に違う点がひとつある。

多様な機材が、いらない。

モジュラーシンセ沼では、新しいことを試すたびにモジュールを買わなければならなかった。しかし今回の沼では、一台の優秀なマシンがあれば事足りる。(といってもこの一台に行き着くまでに結構な投資はいるが)音楽も、映像も、データ構築も、文章も、すべて同じ画面の中にある。

正直に言おう。AIの沼に落ちるには、案内人が必要だった。

YOUTUBEには、世界中の「先に落ちた人たち」がいた。難解な概念を噛み砕いて説明してくれる動画が、無数にある。深夜に「なるほど、そういうことか」と膝を打つ夜が、何度あったことか。

そしてClaudeをはじめとするAIチャットは、わからないことをその場で聞ける「話せる教科書」だった。恥ずかしい質問も、基礎的すぎる疑問も、嫌な顔ひとつせず答えてくれる。「こんなことも知らないのか」と言われる心配が、ない。これは年輩者にとって、想像以上にありがたいことだ。

かつてなら専門書を買い、スクールに通い、詳しい人を探すしかなかった。今は、画面に向かって話しかけるだけでいい。沼への入り口が、こんなにも低くなった時代に生きていることを、素直に喜びたいと思う。

振り返れば、人生は沼の連続だった。

沼にはまるたびに、新しい言語を覚えた。新しい知識がどんどん増える。自分が思っていたより、まだまだ好奇心があることを知った。そして、いかに勉強してこなかったかも思い知る。

AIという今回の沼がどこまで続くのか、まだわからない。地図のない大陸を歩いている感覚は、あの頃のモジュラーシンセと同じだ。ゴールが見えないから、今更立ち止まれない。

そしていつかまた、次の沼が現れるだろう。

その時わたしはきっと、またケーブルを——いや、キーボードを叩きながら、夜中の2時に画面を見つめているはずだ。

沼は怖い。でも、沼のない人生はこの先もっと怖い。

Ayler’s Module

モジュラーシンセを駆使して作ったオリジナル曲。モジュラーの一つを触っている時突然地面を揺るがすようなサックスに似た音が出現した。急ぎレコーダーを回しながら作った曲。そのサックスに似た音のニュアンスがアルバートアイラーに似ていたのでこのタイトルとなった。オリジナル曲2019年制作。2022年1月にYoutube用にこの動画を作った。

主要機材など

#ExpertSleepers#Disting#ZwobotTribute to Albert Eyler by the sound coincidentally generated by #ExpertSleepers#Disting. Video created by #Zwobot based on the original track “Ayler’s Module” released our bandcamp site 2019.

AI動画のはしりのような映像制作ツールZwobotで作った。懐かしい。